税法上・社会保険上の扶養の対象範囲から収入基準まで徹底解説

「パート収入を家計の足しにしたい」「アルバイトでお小遣いを増やしたい」と考える方も多いでしょう。しかし、収入が一定以上になれば、主に家計を支える方(生計維持者)の住民税・所得税の控除がなくなったり、社会保険料を自分で納めたりする必要があります。

今回は、税法上・社会保険上の扶養について詳しく解説します。税法上・社会保険上の扶養が適用できる家族の範囲や、配偶者の控除などについて確認し、自分の働き方を考えてみましょう。

1.扶養とは?

扶養とは、家族の生計を主に担っている方が、配偶者や子ども、親といった収入の少ない家族を経済的に支えることです。日本では、扶養される側の収入が一定未満であれば、家計を主に支える方の扶養に入れます。しかし、扶養には「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」の2種類があることに注意しましょう。

税法上の扶養と社会保険上の扶養には、以下のような特徴があります。

税法上の扶養 ・家計を主に支える方が、住民税や所得税の控除を受けられる
・納税者が納めるべき税金の金額を抑えられる
社会保険上の扶養 ・家計を主に支える方の勤め先の健康保険や、厚生年金の「被扶養者」になれる
・自分で健康保険料などの社会保険料を納めなくてもよい

 

税法上の扶養と社会保険上の扶養には、納めるべき金額の他、扶養の対象にも違いがあります。

では、税法上の扶養と社会保険上の扶養の対象となる条件には、どのようなことが挙げられるのでしょうか。まずは、法律で定められている税法上・社会保険上の扶養の家族(続柄)や年齢の範囲を確認しましょう。

2.税法上の扶養の対象範囲

税法上の扶養とは、生計維持者本人に扶養する家族がいる場合に、生計維持者の年間収入(所得)から扶養人数に応じた額を差し引くことができる制度です。税法上の扶養に入ることにより、家計を主に支える方の課税所得が減るため、住民税額や所得税額を抑えることができます。

ここでは、税法上の扶養の対象範囲について詳しく解説します。住民税額などを抑えたい方は、扶養控除の対象となる家族や年齢の条件などの基礎知識をぜひ身に付けておきましょう。

2-1.家族

税法上の扶養の制度は、扶養する方の妻や夫が対象となる「配偶者控除」「配偶者特別控除」と、それ以外の親族を対象とする「扶養控除」の2つに大別できます。

控除の種類 対象となる続柄・範囲
配偶者控除 A社で週2日、B社で週3日働いている
不動産投資で毎月家賃収入が50万円入る
配偶者特別控除
扶養控除 扶養する方の親族

・6親等内の血族(例:扶養する方の子どもや実両親)
・3親等内の姻族(例:扶養する方の配偶者の実両親)

出典:国税庁「No.1180 扶養控除

 

扶養の控除対象の範囲は広いです。ただし、税法上の扶養に入るためには、扶養する方と扶養される方が生計を一にしていなければなりません。同居が原則となりますが、「遠方の学校に通う学生であり、実家を離れて一人暮らしをしている」などのケースは同一世帯であるとみなされます。

2-2.年齢

税法上の扶養の制度を利用するためには、「配偶者か6親等内の親族・3親等内の姻族であること」「生計を一にしていること」の他に、年齢の条件を満たす必要があります。

対象となる年の12月31日時点で16歳以上となる親族・姻族が、税法上の扶養の対象となります。

以前は、扶養控除に年齢制限はありませんでしたが、児童手当(子ども手当)の創設以降、16歳未満に対する扶養控除は過剰な対応であるとして年齢制限が設けられました。なお、扶養に入る年齢条件に上限はありません。

3.社会保険上の扶養の対象範囲

社会保険上の扶養とは、家計を主に支える方が加入する健康保険や厚生年金の被扶養者になることです。

日本には、全ての国民がいずれかの健康保険組合に加入する「国民皆保険制度」や、20歳以上の国民に加入義務がある公的年金制度があります。社会保険上の扶養に入れば、被扶養者は扶養者と同じ社会保険に加入することとなり、被扶養者は自分で社会保険料を納める必要がありません。

社会保険上の扶養の対象範囲は、税法上の扶養の対象範囲とは大きく異なります。事前に家族・年齢の対象範囲について、しっかり確認しておきましょう。

3-1.家族

社会保険の扶養の対象範囲は、主に家計を支えている方の配偶者、および扶養者の3親等内の親族です。しかし、3親等内の親族でも、同居していなくても扶養に入れる方と、扶養者と同居している必要がある方の2パターンがあることに注意が必要です。自分がどちらに該当するか、きちんと確認しておきましょう。

■扶養者と同居していなくても扶養に入れる方

  • ・配偶者(内縁関係も含む)
  • ・実子・養子・孫・兄弟姉妹
  • ・実両親・養父母・祖父母・曾祖父母

■扶養者と同居している必要がある方

  • ・同居していなくても扶養に入れる方で挙げた関係性以外の3親等内の親族(義父母など)
  • ・内縁の配偶者の両親や連れ子(内縁の配偶者が死亡した後も扶養に入れることが可能)

 

3-2.年齢

社会保険上の被扶養者の年齢制限には下限はありませんが、「75歳未満」という上限があることに注意しましょう。

75歳以上の方は、それまでに加入していた社会保険の種類に関わらず、75歳の誕生日を迎えた時点で後期高齢者医療保険制度に加入しなければなりません。一人の人物が加入できる社会保険は1種類のみであるため、75歳以上の方は社会保険上の扶養の対象外となります。

4.税法上・社会保険上の収入基準

税法上・社会保険上の扶養に入るためには、扶養者との関係性や年齢といった条件に加えて、一定の収入基準を下回る必要があります。
ここでは、税法上・社会保険上の扶養を受けられる収入基準を紹介します。

■税法上(所得税)の扶養の収入基準

配偶者が扶養に入る場合、夫婦それぞれの所得によって、配偶者控除や配偶者特別控除による控除額が異なります。当該配偶者が給与所得者であり、給与収入が103万円以下の場合は配偶者控除、103万円超201万円以下の場合は配偶者特別控除が納税義務者に適用されます。

ただし、配偶者特別控除は、収入金額が150万円を超えると段階的に控除額が減る仕組みとなっているため、注意しましょう。

配偶者以外の親族が税法上の扶養に入るためには、次の2つの条件をクリアする必要があります。

  • ①年間の合計所得金額が48万円以下であること(給与所得の場合は103万円以下)
  • ②白色申告の専従者・青色申告の専従者として給料(専従者級給与)をもらっていないこと

扶養に入る条件を満たしている方でも、被扶養者の年齢や条件によって控除額が異なります。

被扶養者の年齢などの条件 控除額
対象となる年の12月31日時点で16歳以上の被扶養者 38万円
対象となる年の12月31日時点で19歳以上23歳未満の被扶養者(特定扶養親族) 63万円
対象となる年の12月31日時点で70歳以上の被扶養者 同居老親等以外の方 48万円
扶養者または扶養者の配偶者の父母や祖父母で、同居している方(同居老親等) 58万円

出典:国税庁「No.1180 扶養控除

 

■社会保険上の扶養の収入基準

社会保険上の扶養に入るための収入基準は、130万円です。被扶養者が60歳以上である他、被扶養者に障害がある場合は、基準が180万円までに引き上げられます。ただし、一定以上の規模の会社で年収106万円以上を稼ぐと、自分で社会保険に加入し、社会保険料を負担する必要があります。

なお、社会保険では、所得税を計算する際に非課税となるものも収入に入れなければならない点についても注意しましょう。

社会保険で所得税を計算する際に非課税となるものは、以下の通りです。

  • ・失業手当
  • ・傷病手当金や出産手当金
  • ・遺族基礎年金や遺族厚生年金
  • ・障害基礎年金や障害厚生年金
  • ・労災保険の各種給付

 

5.扶養控除の範囲から外れずに働くなら?

扶養に入ることには、扶養者の住民税や所得税の控除を受けられたり、社会保険料を納めなくても健康保険に加入できたりと、さまざまなメリットがあります。このようなメリットを享受したい方は、扶養の範囲から外れないよう、自分と配偶者の見込み収入に注意しながら働きましょう。

所得税の控除と社会保険上の扶養の両方を受けたい場合に気を付けるポイントは、以下の通りです。

  • ・給与収入について、配偶者は103万円(月額約8.6万円)、それ以外の被扶養者は130万円(月額約10.8万円)を超えないように見込み額を計算する
    (※あくまでも目安であるため、個人で控除額が異なることに注意する。)
  • ・一定規模以上の企業に従業員として勤務する方は、給与収入が106万円を超えないように仕事を調整する
  • ・扶養者が配偶者の場合、扶養者の所得金額が控除額に影響することも考慮する

扶養に入ることには節税というメリットもありますが、扶養の範囲から外れて労働することは必ずしもデメリットばかりではありません。扶養から外れて自分の収入を上げることで、世帯収入を増やすことができるためです。

家族の生活状況や年齢に合わせて、損をしない働き方を選びましょう。

6.まとめ

扶養とは、主に家計を支える方が、収入の少ない家族を経済的に支援するための制度であり、日本では「税法上の扶養」と「社会保険上の扶養」の2つの制度が存在します。それぞれ対象となる家族の範囲や年齢制限、収入基準などの認定基準が異なるため、自分が扶養に入れるかどうか事前に確認しておきましょう。

扶養に入ることには納税者本人の納税額を抑えられるメリットもありますが、扶養を外れて稼ぐことは世帯収入の増加に繋がるため、一概に悪い方法とは言い切れません。自分や家族の生活・収入状況に応じて、適切な働き方を家族で相談しながら選択することが大切です。

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